介護・訪問美容師は、お年寄りや障害をお持ちの方などを相手に施術することの多い仕事です。店舗へ訪れる方とはまた違った技術やノウハウが必要になり、介護などの幅広い知識が求められます。
では介護美容師として開業する際には、理美容免許以外にも資格取得が必要になるのでしょうか。今回の記事では、介護・訪問理美容師についての様々な資格などについてご紹介していきます。
Last Updated:2021/4/12
理美容師としてだけでなく介護に関してもエキスパートを目指すなら
一般的な理美容師といえば、サロンなどに勤めて来店したお客様にカットやパーマなどの施術を行います。一方で介護・訪問理美容師は、自らがお客様の元へ出向いて理美容サービスを提供するものです。そしてサービスを提供する場所や環境が異なれば、利用する顧客の層も変わります。
例えば訪問理美容のお客様には、高齢者の方や障害をおもちの方なども多くおられます。体が不自由で、自分の足ではなかなか理美容室に行けない人などが訪問理美容サービスを受けるのです。
中には子育てが忙しい母親や自宅介護などで外に出られない人など、一般家庭に訪問することもあります。そのため通常の理美容に関する知識や技術だけでなく、介護や福祉に関するノウハウも自ずと必要になります。だからこそ福祉理美容師や介護関係の資格などを取得しておけば、将来的に有益なものになることは間違いありません。
安心して訪問先で施術を行うためにも、様々な知識を取り入れておいて損はないでしょう。
ただそれらの資格は、必ずしも取得する必要があるわけではありません。では介護・訪問理美容師にはどんな資格や免許が必須なのでしょうか。
訪問理美容は理容師・美容師免許だけでも大丈夫
訪問理美容師の資格や検定などには様々なものがありますが、必ず取得しなければならないのは国家資格である「理容師・美容師免許」だけです。
介護関係や福祉理美容師の資格は、受講する際に知識や技能を学べるので間違いなく自分の力になりますし、持っていればお客様から信頼性を得られやすいでしょう。しかし資格取得は必須ではないのです。
なぜなら体の不自由な方などに施術を行う場合でも、訪問理美容師の仕事は理美容関係のサービスを提供することだからです。そもそも介護・訪問理美容師というのは、明確に基準が定められていないので、一般的な理容師や美容師と変わらない施術を行います。
とはいえ施術を行う際には、寝たきりの方へのカットやシャンプーなどを施すこともあるので、必然的に介護や福祉関係の知識も求められるでしょう。
認定資格や講座は現役理美容師向け?
現在では、様々な訪問理美容の認定資格が取得できます。例えば、
- NPO法人 全国介護理美容福祉協会の「福祉理美容師養成コース」
- 一般社団法人 日本訪問福祉理美容協会の「訪問福祉理美容師」
- 一般社団法人 日本訪問理美容推進協会の「ヘアメイクセラピスト養成講座」
などです。
基本的にこれらの資格は、講習や実習から様々な知識やノウハウを学び、最終的に試験を受けて合格すれば認定されるものばかりです。試験内容もしっかりと講習を受けていれば落ちることもないレベルと言われています。
そして実施期間は1~2日と短いものが多く、現役の美容師などでも比較的取得しやすい認定資格です。どの講習も内容に特別な差があるわけではないので、お住いの地域から近い場所で日程などの都合が合うものを選びましょう。
ただ受講料は25,000~40,000円ほど差があり、月額1万で2年間継続するオンラインサロンなどもあるため注意が必要です。
介護職員初任者研修も取得すべき?
訪問理美容としての認定資格ではなく、介護の知識やスキルを専門的に学べる資格もあります。こちらは介護関係に絞ったものなので、訪問理美容では補足しきれない細かい部分まで学ぶことも可能です。
理美容に関する技術だけでなく、介護の面でもエキスパートを目指す方向けの資格と言えるでしょう。その中でも、介護の入門的な資格として挙げられるのが「介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)」です。
もちろん必須の資格ではありませんが、独学で勉強するよりもはるかに効率が良いですし、なにより訪問先の施設やお客様からの信頼度も得られやすくなります。新しい顧客を集客する際にも、資格を持っているのと持っていないのでは、明らかに取得しているほうが安心できますよね。
では具体的にどんな資格なのか見ていきましょう。
介護職員初任者研修とは
介護職員初任者研修は、在宅や施設を問わず、介護職として働く上で基本となる知識や技術を習得するものです。そのため訪問理美容だけでなく、介護職としてのキャリアをスタートする際にもぴったりの資格と言えます。
介護に関する基礎的な部分を学べるため、一から学ぼうと思っている人や独学でしか勉強したことがない人の入門的なものといっても過言ではありません。それに年齢や学齢、必要資格や実務経験といった受講する際の条件はないので、誰でも受けることが可能です。
そして資格を取得するには、130時間10項目のカリキュラムを修了することと、修了後の試験に合格する必要があります。
具体的には、
- 介護における尊厳の保持・自立支援
- 介護・福祉サービスの理解と医療の連携
- 介護におけるコミュニケーション技術
- 老化や認知症、障害の理解
などのカリキュラムを受けます。
参考:厚生労働省「介護員養成研修の取扱細則について」(PDF)
また以前のヘルパー2級では、全てのカリキュラムを修了するだけで資格を取得でき、30時間(5日間)もの実習がありました。現在の介護職員初任者研修だと修了試験があること、実習を廃止する代わりにスクーリングの授業時間が増加、認知症ケアの項目が追加されています。
しかし実習で介護現場を知る機会は貴重な体験となるため、一部のスクールでは現在でも任意で実施しているようです。
試験自体はそこまで難しいものではなく、100点満点中、70点以上が合格ラインとなります。真面目に講習を受けていれば問題ないはずですし、万が一不合格でも再試験も開催されているのであまり気負わなくても大丈夫です。
受講クラスの選び方
介護職員初任者研修は、上記で述べたような10項目におよぶカリキュラムにそれぞれ時間数が割り振られています。その規定時間数を満たすために、開講しているスクールに通う必要があるでしょう。
また通信講座を受けることで、それらの受講時間を減らすことが可能です。ただし通信学習の上限は40.5時間と定められているので、最低でも89.5時間以上はスクールに通わなければなりません。これは日数にすると15日~17日ほど。
現役美容師などの働いている方は休日に通ったりスケジュール調整したりしながら、3~4ヶ月をめどに修了させることを目標にすると良いでしょう。
時間に余裕のある方は、通信講座を利用すれば最短1ヶ月程度の期間で受講を修了させられます。転職の合間や訪問理美容師として本格的に活動する前などに、あらかじめ短期間で資格取得できるプランを練っておくのも得策でしょう。
なぜ今「介護・訪問理美容」なのか
今の理美容業界では店舗数が増えていることもあり、集客が難しい時代に突入しています。それぞれの事業者が新しい技術やノウハウを取り入れるなど、様々な工夫を凝らして顧客獲得に力を注がなければ、今後は生き残れない可能性すらあるのです。
2016年4月には美容師法が改正され、訪問や出張などの理美容サービスの規制が緩和。その影響により、介護・訪問理美容については需要が年々高まりつつあるのです。
さらに日本が高齢化社会に突入していることも大きな要因として挙げられます。2017年には65歳以上の人口が3,515万人となっており、総人口の27.7%の割合を占めているのが現状なのです。
高齢化は今後もしばらく続くことが予想されるため、需要が増えることはあってもなくなることはないでしょう。
これらのことから介護・訪問理美容師は比較的稼げる職業と思われがちな面があります。しかし事業が軌道に乗るまでは時間が掛かることなど、いくつかの問題点も示唆されているのです。
見えにくい“問題点”
そもそも訪問理美容師の開業は、事業を開始したからといってすぐに顧客を獲得できるとは限りません。想定している商圏エリアに需要があるのかといった地域調査、どの程度の初期費用や経費が掛かるか、適切な料金設定はいくらか、などの計画を立てることから始まります。
そして地域ごとに定められている条例にも違いがあるので、事前にしっかり確認した上で基準を満たし、かつ届出などの手続きを行うなどの準備も必要になるでしょう。
準備が整い開業すると、病院や介護施設などの顧客層がいる施設への営業も重要なポイントです。特に以前からある施設などは、すでに他の理美容業者が入っている可能性も否めません。
自宅からあまり外出できない体の不自由な方であっても、家族や知人の方が散髪するケースもよく見受けられます。そうした需要の見えにくい問題点があるため、事前の調査や確認は念入りに行いましょう。
また広いエリアで細かい情報まで調査するのは、自力だと困難な部分もあります。できないことは市場調査やコンサルタントのプロに依頼するというのもひとつの手です。
知識や技術の向上がオンリーワンにつながる
介護・訪問理美容師は、通常のサロンとは違った様々な知識や技術を求められる仕事です。基本的には理美容免許を持っているだけでも開業できますが、何も技術がないままだと業務への信頼性が下がるだけでなくお客様にも迷惑がかかります。
そのため開業を目指している人は、普段から理美容技術以外にも介護などの知識を身につける勉強を行い日々の研鑽を積むことが大切です。
より介護に関するエキスパートを目指すなら、訪問理美容に関する資格だけでなく「介護職員初任者研修」といった介護方面に寄った資格取得を目指してみるのも良いかもしれません。転職する際にも仕事の選択肢の幅が広がりますからね。
そして介護・訪問理美容師は需要が増えつつあるだけに、個人だけでなく法人などの参入も今後増えていく可能性が高いです。
サロンと比べると規模は小さくなりがちですが、だからこそ個人個人の知識や技術の水準を高めることが重要になります。そうしたオンリーワンの強みを得ることで、事業の発展へとつながることでしょう。